自給農家2世 オグラ三兄弟仮想対談会

ogurake

<出演>
S  長女(22歳)東京都在住大学生
M  長男(20歳)長野市在住高専生
T   次男(17歳)飯田市在住フリーター
        (飯田市=南信州の地方都市)

—— さて本日は、和合で生まれ育った若い3人に来ていただきました。今は皆さんマチに住んでおられるんですが、対談のテーマは「和合、ここで暮らす楽しみ」です。皆さん、豊かな自然の中での自給的な暮らしはさぞ楽しく、素晴らしい思い出も沢山おありでしょう?

S: そんなわけないやん。小さい頃は他の世界を知らんから、こんなもんやと思てたけど、小学校も高学年くらいになったら、「うちは特殊な環境なんや」と気が付いてきて。フツーの家にあこがれたわ。

—— 特殊な環境とは?
S: 山奥過ぎて店もない。家にはテレビもパソコンもケータイもない。フツーのお菓子もない。あらゆる仕事を手伝わされる。しょっちゅうユーキノーギョーだイナカグラシだ言うお客さんが出入りする・・・。

M: ほんま、そうやった。そんでも小さいうちにそっちに洗脳されてしまわんかったのは、おじいちゃん・おばあちゃん家が近くにあったおかげかな。 

S: テレビもあるし、買うてきた肉・魚やお菓子もあるし。

M: Sはテレビでマンガ観せてもらうん楽しみにしてたなあ。プリキュアとか。

S: Mは大相撲中継をな。あたしなんかテレビ観に行くようになる前はお父ちゃんが作った紙芝居の木枠を「うちのテレビ」言うてたららしいで。

M: 肉と言うたらうちでつぶした鶏の肉か、お父ちゃんが獲った猪か鹿か。

T: 俺、鶏の解体できるで。

S・M: そんなん自慢になるか。

M:「勉強なんか別にせんでもええから」言うて仕事手伝わされたなあ。

S: あたしは仕事言いつけられそうな気配感じたら、さっと勉強始めて逃げてたわ。

M: 家事言うても薪で料理・風呂焚き、人力で粉ひきの世界やからな。

T: 田植え・稲刈りの時は「学校昼まででかえってこい」て。

S: そんでも「給食はしっかり食べてこい」て。

M: 土方仕事や大工仕事の手伝いまでやらされたよな。

T: 俺、バックホーの運転できるで。

S・M: そんなん自慢に・・・。いや、それはちょっと自慢やな。

—— 学校は楽しかった?
M: 楽しいも何も。小学校もちょっと特殊やったし。何せ全児童数がひとケタ。Sの学年はたまたま3人おったけど、俺とTは同級生がおらんかったもんな。

S: あたしはそんでも、もうちょっと友達が多勢おる方がよかったかな。けど、少ないおかげで、テレビやゲームの話題についていけずに仲間はずれ、という目にはあわんですんだかな。

M: 子供が少のうて貴重やし、地元のおじ(い)さん・おば(あ)さんにはすごいかわいがってもらえたし。

S: 中学はもう地元にはないんでバス通学。1学年20人ぐらいですごく楽しかった。今から思たら、山奥からいきなり何百人の中学じゃなくてちょうどよかったよな。

M: 俺も中学は楽しかった。けど問題はそのあと。「中学出たらもう自立せえ」とか。今の時代にうちの親ムチャ言いよる。

S: ほんまや。そんであたしが粘って交渉して、高校までは行かせてもらえるよう道切り拓いたんやからね。

M・T : お姉様のおかげです。

S: 高校はあの山奥から通えんからみんな家を出て。あたしとTはアパート住まいに。

M : 俺は学生寮のあるとこ行ったんで。

S: どっちにしても嬉しかった。やっとフツーの暮らしができる。コンビニもあるし、スマホも持てる。

T: ただし自前やけど。

S: 「月5万渡すから何とかせえ。足らにゃバイトせえ」やもんな。家賃からスマホ代から、学校で要るお金から・・・。

T: 修学旅行費自分で出さされる高校生なんて、きょうびまずおらんで。

M: ま、そんでも、これで3人ともあの山奥の特殊な家庭環境から無事脱出できたわけで。

S: よかったよかった。そんで、今度気になってくるんはあの老父母、
M:|老《・》父母はさすがにまだちょっと可哀想やで。
S: はいはい。あの初老間近の父母は、これからもガンコにあそこであの暮らしを続けるんやろな。

M: 買物弱者になってもデジタル弱者になってもな。

S:「買物できひんと困るんが買物弱者、デジタル機器がないと何もできひんのがデジタル弱者じゃ」とか何とか言うてるけどな。

M: あ、なるほど!そういう見方も。

T: 何か深いような。

S: そぉー?

M: Sかてこの前言うてたやん。大学でキャンプ行った時、誰もバーベキューの火おこしができんで、Sが何でもなく火をつけたらえらい尊敬のマナザシで見られたて。

S: そういえば・・・。あたしらフツーじゃまず経験できんようなことをあたり前に経験してきて、自分でも気付かんうちに「強者」になってたんかな。

T: 俺、バックホー運転できるし。

M: 鶏の解体もな。

S: やっぱりうちの親、特にお父ちゃんはえらかったんや。

M: そや。こんな両親、特に父親を持てて俺らはほんとしやわせなんや。

T: 早よいっぱい稼げるようになって皆で仕送りしてさし上げねば。

めでたしめでたし

$${\smallちょっと。何がめでたしめでたしやのん!}$$ 
$${\small何?最後のあの強引なスジの持っていき方は!}$$ 
$${\small俺らが見いひんと思て好き勝手書いて!}$$ 

$${\smallボカ!ボコ!ゲシッ!}$$ 
             

—— 本日はお忙しいところ、有意義なお話をおきかせ下さり有難うございました。 


              =終=

*この対談会はフィクションであり、登場する人物・団体などは実在のものとは・・・少しは関係あります。

  原作・構成・演出 小掠啓司

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今日のライター:小掠啓司
大阪出身、62才。27才の時単身和合へ移住、自給的な有機農家を始める。その後両親も移住して来たり、結婚したり、家を建てたり。
経営は田・畑各4反、平飼養鶏約100羽、週1回程度のアルバイト。
年収150万ほどで贅沢な貧乏暮らし。